『東京逃避行』『炎上』…【日本駆け込み寺・26歳代表に聞く】「トー横」若者たちの描かれない“リアル”

2026/04/14 22:00配信【サイゾー】

m_4096322013.jpg



「トー横」――新宿・歌舞伎町にある、「新宿TOHOビル」横のシネシティ広場エリア一帯を指すワードだ。ここに集う若者を指した「トー横キッズ」という言葉も生まれ、非行の温床になっているなどとしてさまざまに取り上げられるなか、「トー横=ヤバい」というイメージがもはや固定化しつつある。


主演映画『炎上』公開、森七菜のもつ「揺らぎ」


 そうした社会情勢を映すように、映画『東京逃避行』が3月20日に公開。24歳の新星・秋葉恋監督が、封鎖後の「トー横」を舞台に行き場のない現代の若者たちを描いた物語で、息苦しい世相に問題意識を抱く人の数を反映するかのように、初週ミニシアターランキング(興行通信社調べ、3月20日?22日)において、実写邦画での週末観客動員数1位を獲得した。


 解放感溢れるトー横の日々を綴った自伝的ネット小説『東京逃避行』に憧れた女子高生・飛鳥(あすか)は、ある日、鬱陶しい父親から逃げ出したトー横で、その小説の作者・日和(ひより)と出会う。心に傷を負う者同士、現実逃避のひとときを共有しながら絆を深めるが、救いに見えた場の裏側では、少女たちが違法薬物や売春業に飲み込まれている現実があった。日和が性売春で稼いでいることを知った飛鳥は、彼女を連れ出すため、2人で歌舞伎町からの逃亡を図る……というあらすじだ。


 さらに4月10日には森七菜の単独初主演映画『炎上』(監督・脚本は長久允)が公開された。森はカルト宗教の信者の家を飛び出し、「トー横」に流れ着いた少女・小林樹理恵役。若者たちが「トー横」に吸い寄せられるさまが描かれるエンタメ作品の連続的な公開は、彼ら・彼女らが現代社会の闇にのまれている実態があるからこそ生まれたムーブメントだろう。





「トー横」封鎖で、若者たちはどこへ行ったのか


 トー横は、2018年ごろから家庭や学校生活に悩みや問題を抱えている若者たちが自然発生的に集まり始め、コロナ禍に「トー横界隈(キッズ)」としてSNSやメディアが取り上げたことで、急速かつ広範囲にその存在が知れ渡った。同時に、界隈を狙った援助交際や犯罪行為、薬物中毒、飛び降り自殺などの問題も取り沙汰されるようになった結果、2023年末に広場は封鎖。2025年4月には一斉補導が実施されている。が、その実、若者たちは居場所だった「トー横」を“追われた”だけに過ぎない。


 秋葉監督が目指したのは、そんな歌舞伎町の“今”を描くこと。サイバーエージェント運営のWEBメディア「CyberAgentWay」のインタビューでは、「トー横封鎖によって若者たちはどこへ消えてしまったのか」という街の空気を映画に刻みたかった、と明かしている。


 作中では、性風俗店に流れ着いた女子や、警察に保護され実家に帰るも悲惨な末路を迎える女子、保護施設で生活する子供たちなど、さまざまな境遇の若者が登場する。事実、トー横から若者を締め出したところで彼ら・彼女らの抱える問題がなくなったわけでは全くない。





若者が「トー横」に集まるワケ


 人間の業が渦巻く歌舞伎町で、生きづらさを抱える人たちを2002年から見守ってきた団体が公益社団法人「日本駆け込み寺」だ。


 現在は26歳の清水葵さんが2代目代表理事を務め、自分自身、トー横に集まる層と近いZ世代であることを活かしながら、家庭内暴力や人間関係・金銭トラブルなどに悩む若者たちの支援に取り組んでいる。前述『東京逃避行』にも協力した清水さんに、映画にも描かれることのない、トー横に集まる若者たちの実態を聞いた。


「(映画『東京逃避行』では)女の子2人(飛鳥と日和)が手と手を取り合って、現実から逃避する姿が描かれますけど、実際は『そこで逃げても(結局)死んでまう!』ということばかりだし、そもそも歌舞伎町に集まる子たちはそんな簡単に他人を信用しない。ずっと一緒にいた子が目の前で補導されても『ああ、行ったわ~』みたいな感じですね。


心を許しすぎると自分がダメージを受けることは百も承知という界隈なので、みんなどこか冷めていて、上辺で付き合っていますよね。根本的に相手を信用はしてないけど、でも誰かとつるまないと生きていけない。『今日巡回の日』とか『私服警官が多い』といった、自分を守るための情報もつるんでないと回ってこない。生き延びるために群れている」(清水さん、以下同)





SNSが作った「同世代の溜まり場」というイメージ


「トー横」には、どんな若者が集まるのか。


「どこか孤独を感じていて、誰かと一緒にいたい人ですね。地元の環境に馴染めなかったり、学校でいじめを受けていたりする子たちが、同世代とはっちゃけたくて集まる。家族環境が複雑な子も多いです。どこにいても居心地が良くないと感じている子たちが、やっぱり一人は寂しくて、誰かと群れることができるスポットを探し流れ着く」


『東京逃避行』で、飛鳥は日和に会うことを一つの目的としてトー横を訪ねる。コミュニティを探しに来るケースは、よくある話だろうか。


「そうですね、群れることでしか叶えられない“青春”に飢えて、仲間を探しに来る場合もありますし、自分を理解してほしくて来る場合もあります。たとえば、地雷ファッションが好きだけど地元だと変な目で見られるからと、歌舞伎町で自分を解放する子とか。


……今の歌舞伎町って、昔のような“怖さ”はあまりないんですよね。むしろSNSではダンスをしたり酒を飲んで騒いだりと“楽しそう”な動画が出回り、もはや観光スポット化しています。遠方からも、『あそこに行けば仲間がいる』ぐらいの感覚で集まってくる。メディアは社会問題として取り上げるかもしれないけど、若者は、むしろトー横に行けば自分が抱えている悩みに共感してくれる人がるかも、という一縷の望みや憧れを持って来ます」





同調圧力で自傷行為に走る若者


 居場所を求めてたどり着いた先で待っているのは、必ずしも「解決」ではない。ただ、そうした若者たちに共通するのは、一瞬だけでも“辛さ”を忘れられたらいいという刹那だ。


「何をもって解決かはさておき、OD(オーバードーズ=薬物の過剰摂取)して“飛ぶ”子も多いですし、それを配信する子もいる。リスカも、赤く綺麗な血を見ると『ああ、生きてるんだ』と実感できるから止められない。追い詰められた子たちに状況を打破する力はなく、ただただ“今の辛さ”を終わらせたい。配信やリスカは、自分という生き物がこの世にいるという最後の承認欲求なのかもしれません」


 ODやリスカに走る背景には潜在的な同調圧力もある、と清水さんは見る。


「大人や社会に反抗するのは、現状に『NO』を言うことでもあって、結構なエネルギーがいりますよね。けど、そもそもそこまでのエネルギーがなくて、一歩めのNOが言えない。一方で、せっかく見つけた居場所で、求められたことを拒絶すればまた浮くのかなと考えてしまう。そこでODをやってみたら、一瞬の現実逃避ができる。周囲からも“認められた”と錯覚する。そうしてどっぷり依存しちゃうんでしょうね。


(ODやリスカは)もはやある種ファッション的になっていて、青くなった舌(特定の市販薬に青い着色料が含まれている)を見せびらかしたり、腕に包帯を巻いて『病んでいる私』を演出したりする。どんな共通点であっても、繋がる人たちがいれば満たされるという心理のあらわれだと思います」





AIの普及で「友達の作り方」に悩む若者が増加


『駆け込み寺』に駆け込んでくる最近の若者たちに、何らかの傾向はあるのか。


「コミュニケーションができない人の割合が急増していますね。友達の作り方がわからない。趣味を持てばというと、趣味の見つけ方がわからない。AIの発達とも関係があると思っています。ここ 1年ぐらいで急激にAIの利用が当たり前になり、それと比例するように、コミュニケーションに関わる相談が多くなっていることを実感します」


 SNSが登場した頃から、対面での会話が苦手になったという声はあったが、SNSはまだ“双方向”だった。AIは、はるかに“一方的”な投げかけで完結する。


「AIは自分にとって都合のいい答えだけをくれて、傷つけるようなことは言いません。AIが相手なら、顔色を窺う必要もありません。するとその副作用で、生身の人間とどう喋ったらいいのかがわからない。相手の表情を見ながら喋るとか、相手によって話す内容を変える、といった臨機応変に円滑なコミュニケーションをすることができなくなりつつある。


 ただ現実世界に生きている以上、どうしたって『人』との付き合いは避けられません。だからこそ、いざ学校や会社で『人』がいる場所にいくと、どうやって喋っていいかわかんない。いやいや、外出ようよってことなんですけど」





 それでも相談にやって来るのは、「このままじゃダメだ」という問題認識があるのか。


「将来的な展望をもって駆け込んでくるわけではなく、突発的に『誰かに言わないとしんどい』という状況が多いですかね。貢いだ“推し”からヨシヨシしてもらっていた女の子が、ある日冷たい対応をされると『めっちゃ貢いでるのに!』とか。結局、誰かに本音を吐き出したいという人間の根源的な欲求は、どんなにデジタル技術が進んでも変わらないんですよね」


 警視庁生活安全部保安課は3月16日、そんなトー横近くにある大久保公園周辺の路上で、売春のための客待ちをしたとして、2025年に売春防止法違反容疑で逮捕した女性が112人だったことを公表した(前年+15人)。平均年齢は25歳で、最年少は16歳。なかでも10代は14人にのぼり、前年に比べ11人増えた。動機別では、ホストやコンセプトカフェなどの“推し活”のためが48人と最多で、全体の約4割を占める。SNSを見て、集まる人たちが途切れないという。


複層的な波にのまれながら、揺れもがく「トー横」の若者たち。後編では、清水さんが歌舞伎町の人びとに寄り添うことを決意した背景を語る。


加速する地上波の「ネトフリ下請け化」


(取材・構成=吉河未布 文=町田シブヤ)


このニュースを読んでどう思う?

0 みんなの意見 0
良い!に回答しました
悪い!に回答しました