『豊臣兄弟!』キジを所望した竹中半兵衛と上洛を目指す織田信長にみる戦国時代の身分と出自

2026/03/15 12:00配信【サイゾー】

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 前回(第9回)の『豊臣兄弟!』も面白かったですね。秀長(仲野太賀さん)の姉の「とも」(宮澤エマさん)の夫・弥助(上川周作さん)が同行していながら直(白石聖さん)の命を守ることができなかったのですが、秀長は「責めても直が戻ってくることはない」と弥助を非難せず、「兄者」こと秀吉(池松壮亮さん)が課してくる「無理難題」に奔走し、それで深い悲しみを紛らわせていました。


“軍師”竹中半兵衛という人物


 そんな中、先日から仲間になった蜂須賀正勝(高橋努さん)と3人で山中に蟄居している竹中半兵衛(菅田将暉さん)の調略に取り組む秀長の姿が描かれましたが、「この先を探ってまいれ!」などと秀吉からいわれると、なんの疑いも見せずに走っていく秀長の背中をカメラが映していたのが印象的でした。このワンコ扱い……。『豊臣兄弟!』は、「地獄」の日常を秀長の「けなげさ」で薄め、ポジティブに見せている「ヒューマンドラマ」だということです。


 そうやって訪ねた竹中半兵衛宅は、戸を開けるなり屋内から矢が自動で飛び出すギミックつきで、本人もヒトクセあり、翻弄される秀長一行だったのですが、とくに面白かったのは、キジをめぐる一幕でした。


 竹中から「(次に会うときは)手土産にキジを所望いたしまする」「このあたりの猟師はみなキジを狩りますから」といわれたので、素直にキジを仕留めた豊臣兄弟たちでしたが、それは罠だったのです。


 竹中にしてみれば「本当に仕えるに足りる人間かどうか、タスクを与えて判断していた」のでしょうし、その後の場面のセリフどおり「本当に強い人とは戦ってみたい」という部分もあったのでしょうが、無邪気にキジを狙っていたせいで、斎藤家の侍たちから「このへんの猟師はキジなど穫らぬ!」「食うてもうまくないのじゃ!」とかいう理由で取り囲まれてしまっていました。『ゴールデンカムイ』(集英社)で見るような熊(?)の毛皮だったのも過剰変装だったでしょうか。


 しかしこのあたり、読者はいかがご覧になりましたか?


 筆者の周囲でも「猟師はキジを狩らないの?」という疑問が出ていました。これについては、「大河ドラマ」では表立って取り上げにくい「階級」の話になってくるので、「味が悪いからわざわざ狩らない」とまとめる必要があったのでは……と筆者は踏んでいます。


 訂正しておくと、キジの肉はとても美味です。しかしキジの肉は熟成させ、下ごしらえもして、長時間煮込むなど調理に手間がかかり、その上でようやく美味しくなる素材です。


 この当時、火を起こすために必要な薪や炭は高価でしたし、「食べたらすぐにまた仕事」の平民である猟師はそこまで一回の食事にコストをかけていられないはず。ゆえに「キジ肉は平民の猟師が好む素材でなかった」といえるかもしれません。


 歴史の中で長い間、キジは上流階級の食べ物でした。当時の日本でも上流の武士たちが好んで行った鷹狩の獲物としてキジが捕れれば大喜びですし、大名同士の贈答品にもキジは選ばれました。また、ドラマとほぼ同時代といえるヨーロッパの静物画にもキジ(肉)はブドウ、ワインなどと並び、贅沢な食材の代表例として頻出します。ですから決して「まずくて食べない」のではなく、「美味しく食べるには知識、時間、手間がかかる食べ物で、平民向き食材ではなかった」と覚えておくとよいと思います。


 ドラマの半兵衛の観察眼からすれば、豊臣兄弟そして蜂須賀たちの風体から「こいつらは侍になってはいるけど、出自は低い」というのはバレバレで、とくに豊臣兄弟のほうは「(上流階級がスポーツとして行う)狩猟などはほとんどしたこともない百姓あがりであり、キジに対する知識もない」と見抜かれていたので、わざと「窮地に陥るようなことをされた」気もします。


 その後の抜け道のくだりは完全にフィクションですが、非常に面白く拝見しました。「ほんとに一人で掘れるもんなのか?」とは思いましたけど、脚本家の八津弘幸先生は「おおー」と思わせるのに長けていらっしゃいます。


 それにしても竹中半兵衛の肌の色、本当に白いですね。『豊臣兄弟!』は女性キャラも基本的に現代ではボディビルかフィジークの女性選手なみに黒く、イエベ・ブルベとかへったくれもない感じなので余計に目立ちました。


 次回予告で出ていた要潤さん演じる明智光秀の肌の色も白く、印象的でした。おそらくこのあたりでも「身分」や「ステイタス」を表象しているのでしょう。


尾張と美濃の2国を手に入れ「天下布武」に


 次回のあらすじは次のとおり。


「信長はついに美濃を攻略、半兵衛は藤吉郎の家臣となる。そんな中、足利義昭の使いとして明智光秀が信長を訪ねてくる。さきの将軍を亡き者にした三好一族を討ち、上洛して義昭を将軍に擁立してほしいというのだ。申し出を承諾した信長は、上洛の妨げとなる浅井長政に妹の市を嫁がせ、和平を結ぶことに。市は嫁ぐ前に、あることを小一郎に頼む」。


 史実では織田信長(ドラマでは小栗旬さん、そして秀吉たち)と、因縁の仲となる明智光秀の接点が生まれた時期は明確ではありません。しかし、前回のドラマで描かれた斎藤龍興(濱田龍臣さん)が稲葉山城から逃亡したことにより信長の美濃攻略が成功したのが永禄10年(1567年)8月。


 そして、尾張と美濃の2国を手に入れた信長が「天下布武」の印を使うようになったというのも史実どおりです。


 まぁ、2国しか手に入れてないのに「天下布武」ってヤンキーばりの誇大妄想じゃない?……って思う人もいるかもしれませんが、実は「信長の野望」は以前からかなりのもので、「美濃攻略」が成る約2年前の永禄8年(1565年)12月の時点で、すでに信長は次の将軍こと「室町公方」の候補者・足利義昭(尾上右近さん)を奉じた上洛計画に乗り気になっていました。しかもこれは噂ではなく、信長による細川藤孝(のちの細川幽斎)への手紙が残されているので確実な話です。


 次回のあらすじにもありましたが、当時の室町幕府の内実はグチャグチャで「さきの将軍を亡き者にした三好一族を討ち、上洛して義昭を将軍に擁立してほしい」という部分についても、その将軍候補者・義昭ですら報復攻撃を自前の兵力で行うことができないので、他人を頼るしかないという現実があったのです。


また、「亡き者」にされた「さきの将軍」とは13代・足利義輝で、信長とともに上洛を遂げて将軍となった15代・義昭の間に、京都に入ったこともないまま病気で死んでしまった14代・義栄という幻の将軍がいました。この人は、13代・義輝を殺した張本人である三好一族に担がれた「お神輿」の将軍にすぎません。それで逆賊のお誘いにホイホイと乗ってしまったという事実も、足利将軍家の権威がだいぶ失墜していたことの証明となるでしょうね。


 足利義昭ももともとは将軍候補外の者として、寺で仏道修行中の僧侶でしたが、義輝急死の知らせを受け、クジビキ(!)した結果、見事当選したにすぎない人物でした。ゆえに刀の扱いはおろか、武士としてなんの教育も受けていない有り様です。


 得意なのは情報収集と文書での交流・指示という「スーパーインドア系」の義昭は、もともと室町幕府の有力守護大名だった越前の朝倉家を頼っていたものの、彼らが義昭の将軍擁立には積極的に動いてくれないのが不満で、風の噂で織田信長という「新星」が尾張にいると目をつけていたわけです。この時くらいから、明智光秀は零落の義昭のもとで働いていたようですね。


 だから、信長の上洛計画も永禄8年(1565年)くらいに一度頓挫したけど、美濃攻略成功をきっかけにまた動かしてほしい……という義昭の意思を、永禄10年末~永禄11年(1568年)にかけて織田家中にまで運んできた使者の一人が、明智光秀だったのです。


 史実ではメインの使者は明智ではなく、信長とやり取りをしていた記録も残る細川藤孝ではと想像されますが、ドラマでは細川の初登場はまだのようですね。


 さて明智光秀という男が、本当に「白い肌の知的なイケメン」であったかには、諸説あるかと思います。明智を主人公とした『麒麟がくる』(20年)のレビューでは、筆者も「清和源氏土岐流」の名族出身という、江戸時代以降の明智家(具体的には明智から改名し、尾張藩士となっていた宮城家)の主張する「肩書」で彼を語っていましたが、実際の系譜はかなり不透明なのです。


 今後、信長は義昭とともに上洛し、信長の家臣たちも京都での活動が増えるわけですが、その時、朝廷の公家たちに成り上がり者だとバカにされないためでしょうか、天正3年(1575年)には明智光秀を、惟任光秀に改姓させ、明智も死ぬまで惟任光秀を自称しているのですね。本当に名族出身なら嫌がるはずです。また、現代に伝わる系図の大半で、明智光秀の父親の名前が異なっているのも重要です。


 以上から、「本当は明智が名族出身とはいいにくい」という根拠になるかと思われます。おそらく豊臣兄弟と大差ない出自――よくて土豪レベルの生まれだが、そこから人当たりのよさと真面目さで成り上がり、生粋の上流階級と渡り合えるだけの教養を身につけた苦労人だったのが明智だったのではないか、と筆者は推測する次第です。顔は整っていたと思いますが……。


 さて、今回はこのあたりで。実は明智光秀という「謎の男」についてお話するつもりだったのですが、背景の末期の足利幕府のご説明のほうが長くなってしまいました。明智については来週以降にまた触れていこうと思います!


盗賊の親分・蜂須賀正勝の子孫


(文=堀江宏樹)








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