映画『レンタル・ファミリー』をレンタル なんもしない人と一緒に見てみた レンタルさんの感想と「理想の人間関係」

2026/03/06 22:00配信【サイゾー】

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 日米共同製作の映画『レンタル・ファミリー』が2月27日から全国公開され、週末観客動員数9位にランクインした。アメリカを拠点に活動するHIKARI監督のもと、『ザ・ホエール』(2022)で米アカデミー賞主演男優賞を受賞したブレンダン・フレイザー(57)が主演を務めたヒューマンコメディ。日本からは柄本明(77)や平岳大(51)、森田望智(29)らが出演し、オール日本ロケが敢行された。


和製エンタメが世界に通用しにくい理由


 日本を舞台に、キャリア全盛期を過ぎて仕事が減りはじめたアメリカ人俳優・フィリップ(フレイザー)が、架空の家族を演じる俳優を派遣する「レンタルファミリー社」からの依頼をこなすなかで、人との関わり方や生きる喜びを再発見していくという物語。


 フィリップの仕事相手は、偽の新郎役を頼む同性愛者の女性や、世間から忘れ去られた名優の娘、名門校に娘を入学させたいシングルマザーなど、さまざまな事情を抱えた人たちだ。血の繋がりもなければ、国も文化も違う。赤の他人同士がかりそめの家族として過ごすことで、さまざまな社会事情や問題が浮かび上がる設計にもなっている。


地味な需要がある「人間レンタル」


 突拍子がない設定に見えて、「人間のレンタル」はまったくの“おとぎ話”ではない。2010年代から、恋人代行サービス「レンタル彼氏」「レンタル彼女」や、中高年男性(「おっさんレンタル」)、100kg以上の人(「デブカリ」)など、レンタルできる相手の関係や属性を絞ったサービスがさまざまに登場。ニッチでありながら、それぞれたしかな需要を得ている。


 そして、そうしたレンタル界隈で名を馳せるのは「レンタルなんもしない人(以下、「レンタルさん」)」だ。「飲み食いと、ごく簡単なうけこたえ以外、なんもできかねます」をキャッチコピーに、なんもしない人(自分)を貸し出すサービスを2018年から開始。2019年に漫画化、2020年にはテレビ東京系でドラマになるほど、斬新に思える“なんもしない”というコンセプトとその需要は関心を集めた。


 そんなレンタルさんの目に、本作はどう映るのか。映画公開日にレンタルさんをレンタルし、一緒に鑑賞した後で感想を聞いてみた。


レンタルさんは、『レンタル・ファミリー』をどう見たか


「一言でまとめると“いい話”だったなと。トラブルが起きたり、話がこじれたりしつつも、最後は全員がハッピーになれているという意味で、誰もが“いい話”だと受け止めるんじゃないかな。良くも悪くも」(レンタルさん、以下同)


良くも悪くも、とは?


「家族の一員をレンタルできるサービス、というアイデアを題材にした“いい話”のオムニバスなんですよね。一つひとつの人間ドラマはすごく完成度が高いんですけど、映画全体としてはいろいろツッコミどころが残ってしまって、『これを伝えたいんだ!』みたいなパッションをもっと感じたかったというか」


「本当の家族とは」ゲシュタルト崩壊する“家族観”


 レンタルファミリー社の主な業務は、依頼に応じて架空の家族になりきること。レンタルさん的に“ツッコミどころ”が残ってしまったのはやはり、「仕事」としての視点がぬぐえなかったことに由来するようだ。


「僕なら、あまり受けない仕事ばかりでした(笑)。いちばんの違いは“嘘をつくかどうか”。レンタルファミリー社の仕事は、基本的に周囲の人たちに嘘をついたり、ある種騙したりすることが求められます。それは、僕はなるべくしないようにしています」


 一方で、家族だから言えないことがある。家族だから、心配させたくないことがある。だから、レンタルファミリー社に“都合のいい家族”を依頼したくなる。そうした事情が垣間見えるがゆえに、「本当の家族とは」と考えさせられる面もあるのは事実だ。


「自分の中の“家族観”がゲシュタルト崩壊し、再構築されていく感覚を味わえて、改めて“家族とはなんぞや”ということを考えるきっかけにはなりました。本当の家族でも、自分を隠すのは珍しくありません。逆に、血の繋がりはないけど“自分らしく”あれる関係性もある。それが理想的な人間関係だと僕は思っているんですけどね」


「なんもしない人」を求める心理に潜むもの


 実際、話し相手や泣きたいときの相手など、依頼者が“素”をさらけ出すシーンでの依頼は多いというレンタルさんは、需要の理由として「家族という関係では、どうしても自分に『役割』ができちゃうからじゃないですか」とズバリ言う。


「家族って、『こうあるべき』というイメージが強いですよね。本編でも、レンタルファミリー社社長の家族の秘密が明らかになり、驚きを呼ぶシーンがあります。見ている側の脳内に、“理想の家族の形”という潜在意識があることを突きつけました」


 レンタルさんは、自身の存在意義が「役割から逃げられる場所」であることを自覚する。


「普段は主婦として家事をしていたり、会社という組織の一員として生きていたりする人が“なんもしない”僕と一緒にいることで、そういった役割から離れられるのかもしれないと思います。僕は“なんもしない”んだから、だったら一人で行動すればいいはずなんですけど、逆に一人きりのほうが、自我が発生しちゃう場合があるのかなと。一人でいることで、周りからの見え方――自分の“役割”を気にしてしまう。僕がいる、というだけで、世界が一対一で完結する部分があるのかな」


一線を超えると「しんどい」


 作中でフィリップは、しばしば依頼者の要求を超えた“おせっかい”な行動を取ってしまう。偽の父親として臨んだ小学校受験の面接で、娘の良いところを過剰にアピールしたり、依頼者に黙ってお祖父さんを生まれ故郷に連れ出したり。「なんもしない」ことをコンセプトとするレンタルさんはフィリップと真逆ともいえるスタンスだが、そうと固めるまでには「しんどかった」経験が影響する。


「初期の頃、依頼者の弟のフリをして“偲ぶ会”に出席してほしいという依頼で福岡に飛んだことがあるんです。ちょうどネットでバズってきて調子に乗っていたってこともあって(笑)、無理しちゃったんですけど、結果的にだいぶしんどかったですね。


 だって、会場で周りは全員知らない人。親族も参列者もわからない人ばかりでオロオロするしかないですし、挨拶されても、その人が誰なのかわからない。いろんな人を巻き込んじゃうのが心の負担になって……。それ以来、基本的にいろんな人に影響が出てしまうような依頼はお受けしないようにしています」


AI時代に求められる「なんもしない人」の温かさ


 代理は酷だ、とレンタルさんはいう。


「依頼者にとっての誰かの代わりって、本来申し訳なさがあるんですよね。友達が来られなくなったからとか、父親の代わりとか、“本来”の人がいるから“代理”がある。だから、情のない第三者である僕に依頼をするわけです。今はAIを話し相手とする人も増えているといいますが、AIは基本的に肯定しかしないので、もうちょい人間味のあるリアクションがほしい、というニーズは感じますね」


 刹那的に見えて、その実誰よりも、レンタルさんは目の前の相手と「一対一」の関係として対峙し続ける。たとえ話を聞いてほしい、という“だけ”の依頼だとしても、その「話」の背景は一人ひとり、またその人のタイミングによっても異なる。ゆえに「お金を払えばレンタルできる」赤の他人という立場だとしても、いや、だからこそ、レンタルさんは誰よりも「心」を大事にする。


「一時的なレンタルでも“本気の人間関係”は成立するはずなんですよ。僕、去年依頼でM-1グランプリに出場したんですけど、その依頼者は本気で面白い漫才を作って、本気でM-1に挑んでいました。漫才に『本気』なんだったらきちんと相方を作って継続してというプロセスを踏むべきだ、それこそが本気なんだ、っていう意見もあるかもしれませんが、『継続だけが本気じゃない』ってことは言いたいですね」


 人にはいろんな顔での「本音」がある。そして、その瞬間本気でぶつかりあえる関係性を「家族」だとするなら、いろんな「家族」の形があっていい。仮にそれが瞬間的なものだったとしても。


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(構成=吉河未布 取材・文=町田シブヤ)


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