「遅咲き」ながら大役果たす=両陛下の前で訓練実演―職務に命ささげた警察犬
警察犬慰霊碑に新たに名を刻まれた「スキッパー号」は、昨年の警視庁創立150年記念式典で天皇、皇后両陛下に警察犬の仕事を紹介する大役を果たした。警察犬としては遅いスタートを切ったが、国内に数頭しかいない血液捜索犬に成長。警察犬と連携して働くハンドラーは「遅咲きの苦労人」と活躍をたたえたが、今年6月、がんであの世へ旅立った。 スキッパーはラブラドールレトリバーで、当初は他機関で訓練を受けたが、2歳3カ月で同庁に引き取られた。生後8カ月~1歳半ほどでの入所が通常の中、遅いスタートだった。 臆病な性格で、人混みや傘が苦手。歴代のハンドラーは、訓練時に傘を並べて慣れさせ、人けのない山中などでの活動が多い行方不明者捜索の訓練から始めた。この犬種が得意とする薬物捜索の検定は何度挑戦しても合格できなかったが、訓練を重ねて血液など3種類の捜索活動に従事できるまでに成長。類いまれな集中力を身に付け、殺人事件の現場では、T字路に落ちた1滴の血液を見つけて犯人の逃走方向を割り出したこともあった。 昨年1月の記念式典では、警視庁の警察犬では初めて、両陛下の前で訓練を披露する大役に抜てきされた。 両陛下は2009年、保護犬を家族に迎え入れ、愛子さまが由莉と名付けてかわいがるほどの愛犬家として知られる。宮内庁や関係者によると、実演を終えたスキッパーに対し、両陛下はしゃがんでなでたり、おやつを与えたりし、終了後には「かわいい犬だった」と述べられたという。 さらなる活躍が期待されていたが、今年春ごろにがんが発覚。6月23日、ハンドラーや係員らに見守られて息を引き取った。9歳10カ月の若さだった。くしくも、天皇ご一家の愛犬が最期を迎えた数時間後だったという。 「今ごろは先に亡くなった仲良しの犬たちと楽しく過ごしているかな」と別れを惜しむ3代目ハンドラーの田中伸巡査部長(39)。葬儀の際、万感の思いを込めて弔辞を読み、こう締めくくった。「警視庁がある限り、スキッパー号の名は語り継がれ、その栄誉はたたえられる」。